忘却された地を駆ける 極東「ボーダーツーリズム」宣言!
ボーダーツーリズム(国境観光)は、国境の町を訪ね、お隣の国の様子を眺めたり、
ときには国境を渡って、両国の人々の暮らしや文化に触れる体験型の旅です。
その舞台とすべきが、日本の周辺に広がる極東アジア・ユーラシアの国々であるという理由とはー。
What Makes It Enjoyable
国境観光の3つのポイント
四方を海に囲まれた今日の日本には、陸続きの国境はありません。一方、日本海を隔てた北方には、朝鮮半島や中国東北地方、ロシアなど、極東アジア・ユーラシアの大地が広がっています。
私たち日本人は長い間、この地域のことをよく知らないまま過ごしてきました。戦後のある時期まで続いた米ソの冷戦構造が、この地域と日本との関係を大きく変え、かつての記憶をすっかり忘却させてしまったからです。しかし、すでにそれが終わって30年も経とうとしているのに、私たちの認識がいまだに変わっていないのだとしたら、残念すぎるというべきではないでしょうか。
当サイトは、中村がナビゲーターを務め、中国や極東ロシアをはじめ、自ら訪ねた先々の国境のいまの姿を紹介するものです。さらに、日々の取材活動で知り合った現地関係者とのネットワークを通して、刻々と変わる地域の事情を報告します。
中村が中国東北地方に最初に足を運んだのは、1986年のことです。また極東ロシアは1993年です。以来、数年おきに定点観測のように現地を訪ねていましたが、より本格的に現地事情を取材するようになったのは、2000年代半ばより制作を担当することになった旅行ガイドブック「地球の歩き方」の通称「中国東北地方編」です。
この種の海外向け旅行案内書が軒並み「情報誌化」していくなか、「中国東北地方編」は他のシリーズと比べ、異色の内容となっていることを自負しています。同書の扱う地域は、かつて日本が建国した満洲国という近代史の光と影が遺産として集積しており、その舞台として訪ねるべき場所や、取材することはあまりに多いからです。当時の歴史を語る人は多いですが、今日そこがどうなっているか、知る人はほとんどいません。その地域がこの数十年でどう変わったか、その意味をどう理解すべきか、いま大きく問われているにもかかわらずです。
中国東北地方は北朝鮮やロシアと接していることから、お隣の国へバスや船で川を渡って国境を越えるというルポも何度かやりました。中国からロシアや北朝鮮へ、またその逆もです。100年前なら特別なことでもなかった越境の旅も、今日ではちょっとした冒険です。こうしたことを繰り返しているうちに、極東の国々のいまの姿を深く知ることになったのです。
たとえば、極東ロシア社会の多様性は、今日の日本人にとって未知なる世界です。「日本にいちばん近いヨーロッパ」と称されるウラジオストクは、ユーラシアへのゲートウェイといえます。なぜでしょうか。ウラジオストクに行ってみれば、すぐにわかります。多民族が寄り添い、暮らす姿は日常で、中央アジアやコーカサス出身の人たちも普通に町を歩いているからです。
語り出せばきりがないほど話題はあります。しかも、長い時間一緒に現地を訪ねることになった写真家の佐藤憲一氏の魅力的な写真が豊富に手元にあります。佐藤氏の写真は現地に暮らす市井の人たちの表情や日常をうまく捉えており、これをサーバーの中に置いておいてもつまらない。どしどし公開していこう、というのが当サイトの基本的なスタンスです。その1枚1枚に捉えられたモノ・ヒト・コトが織りなすシーンは新鮮かつ貴重なものばかりです。そこに若干の絵解きを加えなければ、それらのシーンが持つ政治・社会・文化的な背景や意味が伝わりにくいところもあるでしょうから、それが中村の役割というわけです。
ここ数年、ウラジオストクの近さが多くの日本人に知られつつあり、実際に訪ねる人たちが増えています。それを通じて、かつての日本人が有していた健常な地理認識が蘇っていくのだとしたら、その意味は大きいと考えています。そのために、このサイトが貢献できるとしたら、本望です。
中村正人
※このサイトのベースとなるコンテンツの一部は、中村の以下の個人Blogにあります。
当サイトで紹介される国境の町や風景の魅力的な写真のほとんどは、中村の現地取材に同行している、写真家の佐藤憲一によるものです。
佐藤 憲一(さとう けんいち)1963年生まれ。
金沢大学文学部を卒業後、船で上海に渡りユーラシア大陸の西端ポルトガルのロカ岬まで1年間かけて横断旅行。帰国後、プロカメラマンとして活動開始。バックパッカーのバイブル雑誌『格安航空券ガイド』(双葉社)のカメラマンとして世界各国を訪れ、50カ国以上の国々への渡航歴がある。
『地球の歩き方』中国編(ダイヤモンド・ビッグ社)の撮影にも長年たずさわり、中国ほぼ全土を訪れている。近年は中国、韓国を主なフィールドにし、特に中国貴州省のトン族や国境観光をライフワークとして撮り続けている。日本写真家協会(JPS)会員。